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Mac の開発者でこの表紙を見たことのある人は多いと思います。
が、
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この表紙を見た人はあまりおられないのではないでしょうか。一度、復刊ドットコムのお陰で「新紀元社」というところから2004年に復刊していますが、もう絶版のようです。『Human Interface Guidelines: The Apple Desktop Interface(Apple Computer 著/アップルコンピュータ 訳)』 復刊リクエスト投票を見ると、177件も。
モノホンは、アジソン ウェスレイから1989年に出ています。うろ覚えなのですが、まだ池袋でマックワールドエキスポ(だったっけ?)をやっていた頃、参考書売り場に並んでいるのを衝動買いしてしまったのを覚えています。確か3000円ぐらいして、でもすごく薄くて、でもすごく中身が濃過ぎてすっかり虜に。
その後、第2版が出ましたが和訳されることはなく、仕方なく立ち読みしながら、買おうかどうしようか迷った記憶も。それに高かったし。
今は、有志の方が和訳されたサイトがあったんですね。
アップル ヒューマンインタフェースガイドライン
この中にある
第3章 ヒューマンインタフェースガイドライン
これが初版のものをだいぶ加筆修正されているにしても、面影を残しているかと思います。
実は、私にとっての人生の1冊というのは、この「Human Interface Guidelines:The Apple Desktop Interface(日本語版) 第1版」なのです。技術書に3000円も出したのも初めてだったけど、これだけ首っ引きで読み、その後も繰り返し取り出しては見ていた本は、これだけです。「論語」って人もいるでしょうけど、私には、これ。
要は「マン・マシン インターフェイス」をアップル製品内で統一するための、仕様書なわけですけれど、このたった10個足らずの決まり事が、当時の私に大きく影響しました。
マン・マシン インターフェイスは、対人関係(いわばマン・マン インターフェイス)にも当てはまるのですよ。これは、大きな発見だったし、学校じゃ教えてくれなかったし、たぶん知らず知らずに普通の人が身につけることなんだと思います。そんな他愛のない発見でしたが、当時の私にとっても、そしてその後の私にとっても、大きく影響を及ぼす思想でした。
たとえば
-
- 一貫性
- 分かりやすさ
- フィードバック
- 寛容性
- 安定性
- 美的感性度
ね、どれも人間社会で思い当たることばかりでしょう? コロコロ態度を変える人、言葉のやり取りがやたら難しい人、すぐに怒る人、怒るときと怒らないときがある人、生き方や行動が洗練されていて美しい人…そんな人々と接していて、思い出すのが、いつもこのマニュアルでした。
久々に色の変わってしまったこのマニュアルを紐解いてみました。第一章を部分的に抜粋してみます。タイトル以下は私の理解で短縮しながらコメントを入れています。
■ ユーザ側の視点にたつこと
パーソナルコンピュータのユーザの大半はプログラマだったが、ユーザが目的をもって仕事を遂行する道具としてパソコンを使う時代に…プログラマではない一般ユーザがコンピュータを操作する時代に。人間は好奇心をもち学習能力があるもの。創造的な作業を通して、コンピュータと人間のインターフェイスは互いに発展するべきもの。だから、この Apple Desktop Interface も発展途上である。
■ 一般的な10原則
1)比喩の使用
ユーザが普段ふれている環境をそのまま、インターフェイスに持ち込む=デスクトップやゴミ箱
2)操作の直載性
ユーザに主導権を与える=書類をゴミ箱にドラッグして捨てる(カーソルを動かすと書類が動き、ゴミ箱に落ちる音がする)
3)見たものを指示する See and Point(覚えてキー操作するのではなく)
コマンドライン中心のインターフェイスから、直截的にコンピュータを扱える
4)一貫性
アプリケーションの中でも、すべてのアプリケーション間でも。ユーザのとまどいをなくし、学習が容易になる。例えば、コマンド+C でコピー、コマンド+V でペースト。(これは Windows にも踏襲されています。)
5)WYSIWYG(What You See is What You Get.)スクリーンで見たままがプリントできる
このマニュアルの裏づけにこんな印刷がされています。
はっきり言って、とても出版物として完成度の高い品質ではありません。というのも、当時のNTX-Jの解像度は確か 300dpi と、今では信じられないぐらい低いものだったからです。
ときはデスクトップパブリッシングという言葉が流行り始めた頃のこと。実は私が Mac を欲しかった大きな理由は、自費出版もどきができるからでした。でも、ノートに書いた小説を印刷してどうにかする(知人に配るなど)前に、ほどなく Web が解禁し、テキストの状態で世界に向けて発信できるようになってしまいました。それにしても、職場ではグラフィックいりの書類を違和感なく印刷できるというのは、当時とても新鮮でした。それまでは、2ch よろしくアスキーアートで一生懸命図を書いてドットマトリックスプリンタで印刷配布していたものでしたから。
ただし、純正のポストスクリプトプリンタ(NTX-J)は高過ぎて、個人ではちょっと買えないお値段でしたが、フォントまで拘る必要がなければ(デザインユースでなければ)レーザプリンタが個人でも手の届くお値段で登場し、そしてほどなくインクジェットプリンタでカラー印刷もできるように。時代は、私がこのマニュアルを抱きしめている間にもドッグイヤーと言われる速度で進んでいました。
6)ユーザによるコントロール
ユーザが処理を主導する=エラーにつながる操作にはエラーを返し、それ以外の場合はユーザの意志を確認しながら要求された処理を行うのみ。
7)フィードバックとダイアログ
ユーザの操作にはすみやかに反応をして、今した操作に対して何が起きているのか、状況が常に把握できるようにする。その反応は、プログラマではなく一般ユーザに分かる表現で。
8)寛容性
コンピュータはユーザの操作ミスを最大限に助けるべき=すべての操作は原則として取り消し可能であり、取り消しできない場合はその旨をあらかじめ伝える。
9)安定性
概念的な安定性=いつもあるところに同じものが見えている…というようなこと。
10)美的完成度
混乱を招く or 見た目が魅力的でない表示は排除=ユーザの作業環境がユーザに優しく楽しく惹き付けるものであること。
■ グラフィック表現における3原則
1)表示上の一貫性
グラフィック表示における、アイコン、ウィンドウ、ダイアログなどユーザとのインターフェイスの中心となるもののデザインは、容易に理解、識別できるものであること。
2)シンプルさ
ユーザとのインターフェイスとなる、アイコン、ウィンドウ、ダイアログに、必要以上の情報を表示しないこと。
3)分かりやすさ
場合により、アイコンや言葉を使い分け、ユーザに状況を知らせる。
必要以上にアニメーションを使うことはないが、コンピュータが処理中であること、ユーザを待たせる必要があること、その間はそれがユーザに伝わるように、アニメーションカーソルを使うなどの工夫が必要。
ちなみに
■ プログラミング上の方針
では
1)モードレスオペレーション
2)イベントループ
3)操作の取り消し
4)スクリーン
5)表現の明確さ
という項目で、上記10原則を守るためのプログラミング手法を説いています。イベントループというプログラミング手法を使うことで、いつでもユーザの操作を受け付けることができるのです。モードレスオペレーション=これはちょっと深すぎて、容易には説明不能。…深いです。
■ ハンディキャップを持つユーザへの対応
という項目もあります。これは当時のジョブズにとって、何故にコストを払ってまで入れようとした機能なのか、私には分かりません。パロアルトがルーツなのか、これを機に調べてみようと思います。
1)視覚
2)聴覚
3)その他の障害
この思想は、iPhone にも健在です。
ソフトキーボードやボイスナビゲータなど、障害のある方を助ける機能はいまや Mac の世界だけではありません。ソフトバンク携帯でもプロジェクトが走っていますし(魔法のプロジェクト -)、Windows にもすでに搭載されています。先日の、福祉機器展のセミナーで知りました。マイクロソフト、恐るべし。
マイクロソフトでは、障碍 (しょうがい) のある方や高齢者を含めたすべての人々が自己の可能性を最大限に引き出すことができるように、・自社製品のアクセシビリティ機能の拡充
.IT へのアクセス機会の提供
・パートナーシップを通じた業界全体のアクセシビリティ向上
を柱として、さまざまなアクセシビリティ活動を行っています。
この「決めごと」は第2版以降ではもっと複雑になっていますし、マーケティングからの要望で取り入れざるを得なかった、お見苦しいインターフェイスも後々登場しました。たとえば、タブインターフェイスや、メニューが開いたままになるインターフェイスなど、Windows に引っ張られたものもあるそうです。
長々と書きましたが、もし、お読みくださった方がいらしたら、拙い駄文におつきあいありがとうございました。